あざみ野リーガルオフィス(旧 佐藤司法書士事務所)

コラム

遺言書のすすめ

遺言書を考える遺言書を書いておきたいとおっしゃる方が最近増えております。その動機はそれぞれ異なるでしょうが、残されたご家族が遺産分割をきっかけに不和になることの無いようにとの思いからの場合や、残されるご家族、特に奥様や何らかのハンディをお持ちのご家族の行く末を心配されて、法律上の相続分とは異なる相続分を指定してしておきたいとのお考えの場合が多いでしょう。
 また、財産の内容とは別に、生きている間に面と向かって言いにくい自分の気持ちを遺言書の文面に託す方もいらっしゃいます。

 ところが、司法書士の仕事を長くしておりますと、故人に遺言書さえあれば残されたご家族は、その後の手続で苦労せずに済んだのにと思う場合があります。逆にいえば、こんな場合は是非、遺言書を書いておいてもらいなさいとお勧めしたい場合です。
何回かに分けて書いてみたいと思います。

尚、遺言書を書かれた方が亡くなった後の手続きや、遺留分との関係は、遺言書が出てきたら(遺留分との関係と検認手続き)の項目をご覧下さい。


その1 ご夫婦の間にお子様がいらっしゃらない場合

民法の規定では、お子様のいらっしゃらないご夫婦の一方が亡くなった場合、残された配偶者だけでなく、亡くなった方の父母(父母が亡くなっていれば亡くなった方の兄弟)にも相続権があります。
 つまり残された配偶者の方は、若年死の場合を除けば、通常は亡くなった方のご兄弟と遺産分割のお話を進めなければならないことになります。日頃からお付き合いが頻繁にあればよろしいのですが、場所的に遠方にお住まいですと数回しか会ったことが無い場合もありますでしょう。残された配偶者の方は、預金を解約するにも不動産の登記名義を書き換えるにもいちいち亡くなった方のご兄弟に協力してもらわなければ手続が進められないことになります。
 さらにそのご兄弟が高齢で判断能力を欠かれている場合には、その方の成年後見人の選任が必要になる場合もあります。
また、亡くなった方のご兄弟も既に亡くなっている場合は、そのご兄弟のお子様に相続権が発生します(代襲相続といいます)から、残された配偶者の方は、ほとんど面識のない甥や姪に。預金の解約や不動産の名義書換手続の協力をお願いしなければならない事になります。

生前に遺言書を書いておけば、ご兄弟や甥、姪にこのような手続のお願いをする必要はなくなります。

その2 お子様が未成年の方の場合

夫婦とお子さんの家庭であれば、ご夫婦が若い時期に遺言書をというのはお考えにならないのが通常でしょう。
 しかし若いご夫婦の場合でも、健康に不安を抱えておいでの場合には遺言書を書いておくことを検討する必要があります。

 実際、当事務所で手続させていただきました事例でも、小学生のお子様を残して50歳で亡くなった方で公正証書遺言を残されていた方いらっしゃいました。残された奥様が相談にみえたのですが、病気に倒れられる直前の時期に、奥様にも内緒でお書きになったとの事でした。

 遺言書がない場合、未成年のお子様は遺産分割の協議に参加できないので、家庭裁判所に申し立てて未成年者の特別代理人を選任してもらう手続が必要になります。手続自体は決して難しいものではありませんが、出生に遡る戸籍などの必要書類を集め、特別代理人の候補者をどなたかに依頼して申立て手続をするのは、精神的にも疲れた状態の奥様にとって大変なものではないでしょうか。
 おそらく、亡くなられたご主人はご自身の亡き後の手続をお調べになり、すこしでも残されたご家族に手続上のご負担をかけないようにとお考えになったのでしょう。

亡くなられたご主人の、奥様への思いやりの深さを感じさていただいた経験でした。

その3 連れ子で養子縁組の手続きをされていない方

たとえば、次のような場合です。
両親は再婚同士で、自分は母親の連れ子なのだけれども父親とは全く実の親子のようにして育ったが、養子縁組はしていなかった。数年前に母親は亡くなっており、今回父親も亡くなった。父親には前妻との間に子供があり、相続の放棄の手続きをしてもらったが父親の兄弟が健在である。父親の残した家は自分が育った家なのでなんとか引き継ぎたいのだけれども・・・というような場合です。

 親が再婚しても、子供は親の再婚相手と当然に親子関係が発生するわけではありません。養子縁組をして初めて親子関係が発生します。親の再婚した相手に先妻との間のお子さんがいらっしゃれば、そのお子さんだけが相続人となります。また、お子さんがいなければ父親の兄弟のみが相続人となります。
上の事例では、先妻との間のお子さんが相続の放棄をされていますので、父親の兄弟が相続人となり、実の親子のように生活してきたとしても、この方に相続権はありません。
 尚、父親の兄弟が相続を放棄してくれれば、特別縁故者として財産を引き継げる可能性はありますが、長い裁判手続きが必要となります。あるいは父親の兄弟が相続分の譲渡をしてくれれば財産を引き継げますが、高額の贈与税を覚悟しなければなりません。

実は、このような事例が私が事務所を開いて20年間に2度ありました。
もし、両親が連れ子の再婚の方は、一度ご自身が親の再婚相手の養子になっているか確認される事をおすすめします。そして養子縁組が未だでしたら手続きをし、遺産分割時のトラブルを避けるために是非遺言書の作成をご検討ください。


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